前編を読む

クライアントの課題を解決するウェブサイト構築から、「共創」をテーマにした遊園地、インタラクティブなアート作品まで……デジタルを駆使して「人間の本質」にアプローチするその仕事は、言語や社会通念にとらわれることなく国境を超える。日本各地、世界中から引っ張りだこのチームラボ。代表の猪子寿之に不安はあるのだろうか? 多くの人が先の見えない不安を抱える時代に、なぜチームでアートに挑戦し続けるのか? 後編では「不安」と「挑戦」について聞くー。

「不安」という原動力

「そりゃあ、不安はあるよ。明後日くらいに潰れる可能性が極めて高い会社ですからね、うちは。だって、第三者が介入して会社を守ってくれるわけでもないし、安心できるほどお金があるわけでもないし、定期的に決まった仕事があるわけでもない。自分たちで営業をして、獲得していくというスタンスでもないから、いつ仕事がなくなるかわからないわけですよ」

チームラボは創業当初から資金調達をすることもなく、売上目標やノルマがあるわけでもなく、営業担当者もいない。手がけた仕事がまた次の仕事を呼び、資金を生む。猪子は経営計画を立てることはないが、経済活動を回すことは重要視する。

「何かを作り続けて、場や行動を維持するためには経済活動が伴っていかないといけないわけですよ。仲間と一緒に何かを作り上げていく生活が、できれば死ぬまでずっと続いたらいいじゃん。だから、それができなくなってしまうことに対する不安、つまり経済活動が維持できるかどうかという不安があるよね」

2001年に5人の学生が資金ゼロで始めたチームラボのメンバーは、現在400名を超える。会社を設立した学生の頃は月20万円儲かればなんとか食べていけるから、どうとでもなると思っていたと猪子は当初を振り返る。仲間が増えた今、何かを生み出し続けて会社を維持するためにはお金がいるし、経済活動がうまく回っていかないと成り立たない。だからこそ不安がある。でもその不安に打ち克つ必要はないと猪子はいう。むしろ不安はあったほうがいい、と。

「不安があるから、仕事が好きでいられるし、他者の存在、自分が仕事をできていることに感謝もするよね。ある種、仕事はさせてもらっているわけだから。メンバーとの偶然の出会いだったり、たまたま自分たちの作品を誰かが取り上げてくれたり、それを見てお客さんが問い合わせてくれたり……そういう奇跡的な、自分がコントロールできない範囲で会社が継続できているわけだよね。

メンバーがいなくなったら、お客さんがいなくなったら、会社は維持できなくなるわけだから。世界は1ミリも自分ではコントロールできない。当たり前のことなんだけど、不安がそのことを教えてくれる」

チームラボ オフィスの様子

2意外にも猪子にとってはその不安が一つの原動力になっている

「たとえば、誰にでも仕事があったほうがいいという人間の考えから共産主義が生まれて、みんなに仕事が与えられて、利益も平等に分配された。みんな食いっ逸れることはないけど、第三者から仕事を与えられることで、仕事が嫌いになって怠けていったわけだよね。資本主義経済下の自由市場にいる僕らは、仕事があることが絶対的なことではないから、自ら仕事を獲得していかなくちゃいけない。その分不安はあるけど、仕事が好きでいられるし、がんばれる。

もっと言えば動物だって、動物園にいる、自分が狩らなくてもいい状況の動物たちはだんだん食欲がなくなる。一方で、自然界に生きる、自ら食料を獲得しなければいけない不安定な動物は食べることを嫌いにならないでしょ。生きていくために必要だから、嫌いになってる場合ではないわけだよね。

もっと言えば動物だって、動物園にいる、自分が狩らなくてもいい状況の動物たちはだんだん食欲がなくなる。一方で、自然界に生きる、自ら食料を獲得しなければいけない不安定な動物は食べることを嫌いにならないでしょ。生きていくために必要だから、嫌いになってる場合ではないわけだよね。

人間だけじゃなくて、動物も、すべての生命にとって、生きていくということはすごい不安なことだよね。それが生きる原動力になるとも言える」

美の概念を拡張し、人類を前に進める「挑戦」

誰もが先が見えずに不安を抱える現代、チームラボはなぜ、アートという形で表現をし続けるのか。

「この世はね、おぞましいわけですよ。ましてや問題だらけですよ、この社会は。インターネットが誕生する以前と今では、世界の見え方が全然違うんだよね。

昔は世界の問題なんて表に出ることはなかったし、メディアも限られていて、グーテンベルグの時代から印刷っていうのは権力の管理下にあった。ヒトラーの時代もそう。おおげさに言うと、アートくらいしか世界の問題を表現することができなかったわけですよ。

でもインターネット以降は、逆転していて、世界の60億人誰でも、個人が情報発信できるようになったわけだから、世界の問題が顕著になりすぎているよね。インターネットでちょっと調べれば、社会の問題があふれ出てきて、見たくないものまで見えちゃう。

だから、現代において、アートくらいは、もはや忘れてしまいそうな人間の、もしくは世界のいい部分を表現したいと思っているのね。現代アートにおいては、理想的な世界、人間の理想像を作り上げることが重要だと思って作っているんだよね。人が生きることにポジティブになれるような世界をアートで作りたい。そういう世界に自分も逃げ込みたいのね。浸かっていたい」

チームラボ オフィスラウンジ

光や音など非物質的なデジタル表現を用いて、その場所の状況やそこにいる人々のふるまいに合わせてインタラクティブに変化する。それはまるで、美しい世界に自分が浸かっているような感覚にもなる。チームラボのデジタルアートは、美術の概念を鑑賞するものから、体験するものに変えつつある。

「それから、人類を前に進めたいと思ってやってるんだよね。世界がもっと前に進んだらいいなって。アートは、美の基準、もっとわかりやすく言うと『かっこいい』の概念を拡張したり、その基準を変えたりする行為だと思っているのね。

例えば現代、『雨を描いて』と言われれば3歳の子どもでも、全人類雨が描けるわけですよ。つまりそれは、3歳の子どもでも雨を認識できているといこと。でも実際に、絵の中に雨が描かれているのは江戸中期の浮世絵以降なんだよ。それ以前の絵に雨は出てこない」

1877年にフランスの印象派の画家が描いた『パリ通り、雨』という有名な作品がある。写実的だがその絵の中に雨は描かれていない。人は傘を指していて、石畳には水たまりがあって、霧がかかっていて、確実に雨は降っているけれど、雨は描かれていない。それはつまり、人類が雨を認識していなかったのだと猪子はいう。

「子どもの頃サイエンスが好きだったのね。サイエンスによって、人類はいろんな法則を発見して、それまでよくわからなかった物理的な現象を理解できるようになったわけですよ。それと同じように、それぞれの時代のアーティストの作品を通じて、人類が世界を認識できるようになってきたとも言える。

アートによって、いろんな世界の見え方が変わったり、見える量が増えたりして、捉え方が変わった。それはすごく面白いことだと思っていて。それがアートの歴史とも言えるわけだよね。

だから、自分たちもアートによって、人類のなんらかの見え方を一歩前に進めたいし、『かっこいい』の基準や見え方を変えることができたら面白いなと思って、作品を作ってる」

猪子はこの日、キャナルシティ博多(福岡)で発表した、約5万個のFull Color LEDチップを、円柱の表面ではなく、体積的に中まで配置した巨大な動く光の彫刻であるクリスマスツリー『チームラボクリスタルツリー』と、新作『ライトウェーブキャナル』の点灯式に来ていた。LEDを三次元上に配置することによって、三次元の動く立体物をリアルタイムに映し出すことが可能な「インタラクティブ4Dビジョン」という独自の技術を用いた「チームラボ映像彫刻」であるこの作品は、見て美しいだけでなく、スマートフォンを使ってその場にいる人がデコレーションすることもできる。

「今回はたまたま『クリスマスツリーを作る』というお題をいただいたわけですが、『デジタルでやる、チームでやる』という、ある種チームラボの信念上、木を切ってきてここに置くわけにはいかないのです。みんなが思い込んでいるモミの木に飾りが付いた物質的なクリスマスツリーよりも、僕らが作った『チームラボクリスタルツリー』が勝ったならば、人々の思い込みがとけて、『かっこいい』の基準が変わるかもしれない。

デジタルっていうのは、実在する物質ではないわけです。質量のある物質よりも、デジタルのほうがかっこいいと思ったならば、人は物質から解放されるかもしれないよね」

そこにはこれまで見たことも体験したこともないクリスマスツリーが輝き、多くの人が足を止め、魅了されていた。

「アート作品を通じて、人類のなんらかの美学の概念が拡張できれば、価値観が変わっていく。僕らはそこに挑戦してる。デジタルという概念で美を拡張して、人類を前に進める、戦いだよ」


<終>

取材・テキスト / 徳瑠里香
写真 / 高木孝一


チームラボ公式サイト
https://www.team-lab.net/