加藤康之の投資講座-入門編「今の株価はバブルか?」


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今年の冬は例年になく寒くなっています。やっと立春(2月4日)を迎えてほっとしたところで世界の株式市場は大きな調整に見舞われました。バブルの崩壊が始まったのではないかと危惧する人たちも多くいます。

ここ何年かで見ると世界的に株式投資リターンが好調で株価が高くなっていたのも事実です。昨年(2017年)1年間の配当込みリターンは米国株式と日本株式でそれぞれ18%、22%でした。過去3年間(2015~2017年)で見るとそれぞれ30%、37%にも及びます。3~4割も上がったことになります。バブルは崩壊し株価はさらに下がるのでしょうか。そもそも今の株価はバブルなのでしょうか。バブルとはどういうことなのでしょうか。今回はバブルが意味すること、そして現在の株価がバブルなのかどうかを考えてみましょう。


バブルという言葉が経済史で初めて登場するのは、1720年に英国で起こった南海泡沫事件(South Sea Bubble)の時です。これは、スペイン承継戦争で逼迫した財政立て直しのために作られた「南海会社」の株価をめぐる投機ブームのことで、株価の急騰と暴落という結果に終わった経済事件を指しています。結局、南海会社にはファンダメンタルな価値はなく泡(バブル)しかなかったという話です。さて、今の株価はどうでしょうか。

まず、株価はどう決まるのかについて考えてみます。株式は市場で取引されており、その株価は売り手と買い手によって決められます。つまり、市場の需給で決まるわけです。しかし、企業はキャッシュフロー(利益と考えて下さい)を産出す資産であるため、ファンダメンタルな価値(理論株価)を有しています。株価がこのファンダメンタルな価値よりはるかに高くなった時にバブルが発生したと考えることが出来ます。

このファンダメンタルな価値を算出するモデルで最も有名なのは「キャッシュフロー割引モデル」です。これは「企業価値はその企業が将来にわたって産出すキャッシュフローの合計である」という分かりやすいものです。ただし、将来もらう予定の100万円は現在持っている100万円に比べると価値が低いと考えるのが自然であり、将来のキャッシュフローは現在時点の価値(現在価値)に割引いてから合計することになります。この割引く時に使う金利を「割引率」と呼んでいます。

この割引率は国債などの基準金利に企業の成長性に対する信頼度を反映させたものです。基準金利が変わらないとすれば、信頼度が高いと割引率は低くなります。つまり、現在価値は高くなるということです。逆に信頼度が低いと割引率は高くなり、現在価値は低くなります。なお、キャッシュフロー割引モデルのイメージ図は次の通りです。

キャッシュフローの箱がその時点でもらう名目的な金額であり、黒い部分が現在価値です。現在価値は割引かれるため名目的な金額より小さくなります。この図から次のことが分かります。企業価値(つまり株価)は、

①将来のキャッシュフローの予想成長率の高さに比例する

②その予想の信頼度の高さに比例する

③基準金利の高さに反比例する

ここで示された3つの要素が株価のファンダメンタルズです。バブルとはこの3つのファンダメンタルズで説明出来ないほど株価が高くなってしまった場合を指します。

そこで、現在、この3つのファンダメンタルズが市場でどう評価されているのかを調べてみましょう。野村證券の予想によれば、国内主要企業の今期(2018年3月期)、来期(2019年3月期)の税引利益の予想成長率は18.7%、9.0%であり、高い成長が予想されています。米国でも2017年12月期、2018年12月期の利益予想(出所:FACTSET社)はそれぞれ、12.0%、16.3%と同様に高い成長が期待されています。つまり、企業利益の予想成長率は高く、上の①から株価が高くなったことを裏付けていると言えます。

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信頼度の方はどうでしょうか。企業の利益は政治や経済情勢に影響されます。世界の政治情勢を見ると、内向き志向のトランプ政権や北朝鮮問題など不確実性が高くなっています。

それにもかかわらず、世界の好景気は続いています。2017年11月に発表された9月の景気動向指数によれば、2012年12月に始まった日本の景気回復局面が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さになりました。

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米国でも足元の消費信頼感指数は高く、消費も堅調に推移することが期待されています。政治の不確実性はあるものの経済状況は好調で高い企業利益予想に対する信頼度は決して低くないというのが市場の見方です。つまり、②で見ても、株価の高さは裏付けられていると言えます。

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3つ目の基準金利はどうでしょうか。これまで世界的な金融緩和政策のもとで金利は低下してきました。このことは③から株価が上昇することを意味します。しかし、ここに来て金利は大きな転換点を迎え上昇に転じるのではないかとの予想が浮上しています。

実際、米国の基準金利である10年債利回りは2月8日に一時4年ぶり高水準となる2.88%を付けました。

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③によれば、金利上昇は株価を下げる方向に働きます。また、良好な経済環境の足を引っ張り高い企業業績予想の信頼度を下げるという指摘もあります。2月5日の週に起こったマーケットの大幅な調整もこの金利というファンダメンタルズの変化を反映したと考えられています。

さて、最初の疑問にもどりましょう。今の株価はバブルなのでしょうか。

3つのファンダメンタルズに対する市場の評価を考える限り、株価はファンダメンタルズを反映してきたと考えることが出来ます。足元で株価は下落していますが、これも金利の上昇というファンダメンタルズの変化を反映しています。では、今の株価はバブルではないと言えるのでしょうか。

ファンダメンタルズに対する市場の評価に変化がなければ株価はバブルではないと言えるかもしれません。しかし、ファンダメンタルズに対する評価は変わります。やはり過大評価だったということになれば、株価も過大評価、つまり、バブルだったということになってしまいます。

バブルが起こるのは、株価に対してというよりは、ファンダメンタルズに対する市場の評価に対して起こるのです。したがって、バブルであることは、それらの評価が間違っていたと判明するまで分からないのです。「バブルは弾けてみないと分からない」と言われる理由はここにあります。


結局、弾けてみないとバブルかどうか分からない、という結論になってしまいました。ここまで読まれて怒っている読者もいるかもしれません。では、投資家はどう対応すれば良いのでしょうか。

もしあなたが長期投資家であれば、今の株価がバブルかどうかを悩むのは止めるべきです。時間の無駄と言えます。結局誰にも分からないからです。過去にもバブルはありました。しかし、それでも長期投資家は高いパフォーマンスをあげてきたのです。自分に合った適切なポートフォリオへの投資を長期にわたって続けるべきと考えます。

長期で見れば、広く分散された投資はバブルの崩壊を超えてリターンをもたらしてくれることは過去の歴史が証明しています。参考までに、過去30年間、毎月1万円を世界株式(MSCI-ACWI)に積立投資した場合の投資金額と投資パフォーマンスを図(MSCIのデータをもとに筆者作成)に示しました。投資パフォーマンスはリーマンショックで一時的に大きく下落しましたが、それ以降回復していることが分かります。

春の訪れを前に冬の嵐に見舞われてしまいましたが、こういう時こそ長期投資家の見識が試されるのです。

執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

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お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。