加藤康之の投資講座-入門編「ESG投資とは何か」


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資産運用業界にも流行語大賞があれば、2017年の大賞は間違いなく「ESG投資」であったと思います。

ESG投資は、今、日本だけでなく世界的に大きな潮流になっています。ESG投資に関する国際的団体であるGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によれば、世界のESG投資残高は約2200兆円に上ると言われています。2018年も引き続きESG投資が最大の投資テーマになりそうです。今回はESG投資について考えてみましょう。

www.gsi-alliance.org

ESGとは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字「E」「S」「G」をつなげたものです。そして、ESG投資とは、これら3つの要素に対する企業の取組み状況に基づいて投資対象企業を選別する投資手法のことです。

つまり、CO2の排出量削減など環境(E)に配慮した経営を行っている企業、女性の社会進出支援など社会(S)に配慮した経営を行っている企業、そして、社外取締役の採用などガバナンス(G)に配慮した経営を行っている企業に投資をする、という投資手法です。

実は、このESG投資のルーツは1920年代まで遡ることが出来ます。教会の余資運用において「ギャンブル等教義に反する事業を行っている企業への投資は行わない」という投資方針があり、それが源と言われています。つまり、宗教的な考え方がその根底にあるわけです。

しかし、現在、ESG投資は宗教的な投資というよりは、長期的に優れたパフォーマンスを得るための投資手法として認知されつつあります。特に、2006年に国連でESG投資の原則が宣言*されてから大きな注目を浴びるようになりました。

*責任投資原則、PRI(Principle of Responsible Investment) : 2006年、当時国連事務総長だったコフィー・アナンが提唱したイニシアティブ。

www.unpri.org

ところで、なぜ今ESG投資が注目されるのでしょうか。それは企業社会を取り巻く次のような社会的背景があるからと考えることが出来ます。

  • 企業の外部性が高まっている。つまり、企業と企業外にある自然環境や社会との相互依存関係が高まり、それら外部環境が企業価値に大きな影響を与えるようになっている。
  • 企業のパフォーマンスにおいてガバナンスの影響が大きくなってきている。企業の意思決定の質に大きな影響を与えるガバナンス構造は企業価値を決める重大な要因である。(最近、多発している企業不祥事を見れば、これは誰の目にも明らかでしょう。)

産業革命以降、企業を中心とした資本主義社会は未曽有の成長を遂げてきました。しかし、最近、行き過ぎた経済格差や環境破壊など資本主義の負の側面が目に付くようになっています。

資本主義経済の成長は今後も持続するのだろうか。持続するためには何が必要なのだろうか。このような疑問を大手の機関投資家は持つようになっています。その答の一つがESG投資と考えることが出来ます。

ESG投資によって、資本主義を良い方向に導けないか。結果的に投資から高いパフォーマンスを得られないか。過去、資本主義がもたらした高度経済成長から最大の果実を享受したのは投資家です。もし、資本主義が持続可能でなくなれば、最も大きな被害を受けるのは投資家自身です。投資家は、今、資本主義を持続させるために、自ら行動を起こすようになったのです。ESG投資をサステナブル投資(Sustainable Investment)、あるいは責任投資(Responsible Investment)とも呼ぶのは、それらの考えを反映しているためと考えられます。

さて、具体的にはどのように投資するのでしょうか。最も一般的な方法は、各企業に付されたESGレーティング(信用格付けのようなもの)をもとに、レーティングの高い企業を選別して投資を行うというものです。ESGレーティングは専門の評価機関が提供していますが、ESG投資を行っている運用機関でも独自に企業のESG評価を行っています。

ところで、ESG投資によって高いリターンを得ることが出来るのでしょうか。

この疑問については、いろいろな研究があり、議論が分かれるところです。まだ、始まったばかりの分野であり、アカデミックな研究としては有意な結果を得るのにデータが足りず、もう少し時間がかかるでしょう。しかし、その議論の行方に関わらず、投資を開始する機関投資家は増えています。長期的に考えれば、ESG投資を行わないことによる投資リスクの増加が予想出来、いつまでも待っていられないという所です。ある意味で理念的と言えますが、多くの人が納得できる理念なのです。

さて、THEOの投資対象はETFです。現在、ESG投資を行っているETFは存在しますが、流動性や規模が十分ではなく、THEOの投資基準をクリアしていません。しかし、ESG投資は重要な投資テーマと認識されており、近い将来、重要な投資対象として精査されることになると思われます。

執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

  • 投資
  • 年金

お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。