加藤康之の投資講座-入門編「スマートベータはなぜ注目されているのか?」


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前々回の本欄「スマートベータはインデックス運用と何が違うのか?」でスマートベータを取り上げました。

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理論的な解説が中心で、やや難しかったかもしれません。そこで、今回は「スマートベータはなぜ注目されているのか?」というテーマで実際的な話に的を絞ります。

スマートベータのリターンや使い方など、世界の先進的な機関投資家に注目されている理由について解説します。また、最後に、今年のノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授の研究テーマである行動経済学とスマートベータの関係についても触れたいと思います。


スマートベータとはパッシブ運用でありながら、証券市場に存在する特性(ファクター)を利用して超過リターンを目指すものです。

代表的なスマートベータを挙げると、株式では、バリュー、小型、低ボラティリティ等、また、債券では高クレジットリスク等のファクターが良く知られています。このファクターに関する技術的な議論にご興味がある方は前々回の本欄をご覧ください。

さて、これらのスマートベータのリターンがどうなっているか、日本市場を例に見てみましょう。図表1は各スマートベータの累積リターンを市場平均であるTOPIXと比較したものです。

(MSCI社のデータを使用、2001年12月以降)

長期的に見ると市場平均であるTOPIXをアウトパフォームしていることが分かります。つまり超過リターンが出ているということです。この結果については、他の世界市場でもほぼ同様です。

現在、大手年金基金など世界の先進的な機関投資家がスマートベータの利用を増やしています。FTSERussell社の調査”Smart beta:2017 global survey findings from asset owners”によれば、世界の主要年金基金(約200基金が回答)の46%がすでにスマートベータを使っています。そして、この数字は年々増加していることが分かります。

Smart beta: 2017 global survey findings from asset owners(P.6)
www.ftserussell.com

これまで、機関投資家の運用では、パッシブ運用とアクティブ運用を適当な比率で組合わせてポートフォリオを構築することが一般的でした。ここに、第3の勢力としてスマートベータが登場しているのです。

つまり、パッシブ運用、スマートベータ、アクティブ運用という3層構造が先進的な機関投資家のポートフォリオ構成になっています。ちなみに、THEOでは、ETFのみを使っているためアクティブ運用はありませんので、パッシブ運用とスマートベータ(株式ではバリューや小型、債券では高クレジットリスク)からなる構成となっています。

ところで、なぜ機関投資家はスマートベータを増やしているのでしょうか。1番目の理由は低コストです。

スマートベータの性格はパッシブ運用とアクティブ運用の両者のちょうど中間を行くものです。スマートベータはパッシブ運用とは異なり超過リターンの取得を目的にしています。しかし、アクティブ運用とも異なり、スマートベータの超過リターンはリスクプレミアムなど理論的に実証されたものであり、機械的に取得できるのです。あくまでもパッシブ運用の範疇です。

したがって、スマートベータの運用報酬はアクティブ運用に比べかなり低くなっています。整理すると、スマートベータの利用により、

  • コストを抑えながら超過リターンの増加を目指す(パッシブ運用の代替として)
  • 超過リターンを取得しながらコストの低減を目指す(アクティブ運用の代替として)

ということを図っているわけです。

アクティブ運用とパッシブ運用の良いとこ取りをしていると言えます。実際、機関投資家の多くは、既存のアクティブ運用やパッシブ運用の一部をスマートベータに置き換えています。アクティブ運用とスマートベータの超過リターンを比較した研究論文が多く出されていますが、アクティブ運用の多くは結果的にスマートベータとリターンが変わらなかったと検証しているものが数多くあります。パフォーマンスに差がないのであれば、当然コストが低い方が良いわけです。

2つ目の理由は透明性と分かりやすさです。

アクティブ運用は多様であり、どのように超過リターンを狙うのかが明らかでないものが多くあります。また、優れた運用者を選び出す必要もあります。

一方、スマートベータではどうやって超過リターンを得るのかがファクターという形で明確になっています。優れた運用者を選ぶ必要もありません。これは、自分で全体ポートフォリオをデザインしたりリスク特性を理解したりする上で極めて重要な利点です。科学的なアプローチを採る機関投資家はこの透明性をとても重要視します。

最後に、本年(2017年)のノーベル経済学賞受賞者であるリチャード・セイラー教授(シカゴ大学)が貢献した行動経済学とスマートベータの関係について触れておきましょう。

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まず行動経済学です。伝統的な経済学では、人は皆、合理的な意思決定を行うものと仮定されています。一方、経済学の新興勢力である行動経済学(行動ファイナンス理論を含む)では、人は感情に左右され非合理的な意思決定を行ってしまうと仮定しています。後者の方が現実を反映していそうですね。

実際、「みんながA社の株式を買っているので自分もあわてて買ったのだけれど、買った直後に株価は下がってしまった。」といった経験をお持ちの方は少なくないと思います。これは合理的な行動でしょうか。ベストセラーという新聞広告を見るとつい中身を確認せずにその本を買ってしまうというのも同じです。

このように、自分もつられて真似をしてしまうことを行動経済学では「ハーディングあるいは群衆行動」と呼んで、非合理的な行動の1つと考えています。なぜそういう行動をしてしまうのか。その原因については、過去の本欄「投資家はなぜ非合理的な行動をとってしまうのか?」で詳しく説明していますので、興味のある方はそちらを読んでみてください。

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このように、非合理的な行動を理論化し、その前提で社会制度はどうあるべきかといった研究を行った人がセイラー教授です。年金制度の設計などその社会的貢献は絶大です。

さて、スマートベータの話に戻りましょう。スマートベータによる超過リターンはこれまで多くの学術研究で実証され認知されてきたものです。しかし、実は、その超過リターンの要因については様々な学説があり、まだ決着しているとは言えません。その主要な学説の一つが行動経済学です。つまり、投資家の非合理的な行動(行動バイアス)が市場に非効率性をもたらし、それが超過リターンをもたらすという考え方です。最後にノーベル経済学賞がスマートベータにつながりました。

<お知らせ>

12月6日(水)18:00–19:30にライブで「加藤康之の投資講座(入門編)第2回」を開催致します。テーマは「投資理論を資産運用に役立てる(2)」です。
投資理論の全体像やその利用法、勉強法などについて分かりやすく解説致します。気軽な勉強会にして、皆様のご質問にも出来るだけお答えしたいと思います。会場は、東京丸の内にある新丸ビル10階にある京都大学東京オフィスです。ご興味のある方はお気軽にお出かけ下さい。

開催概要

  • 日時:2017/12/6(水)18:00~19:30(開場17:30)
  • 会場:京都大学東京オフィス(丸の内 新丸ビル10階)
  • 参加費:無料
  • 定員:90名(先着順)

お申込方法
こちらの「お問合せ・お申込フォーム」より必須項目を入力の上送信ください。
なお、このライブ講座は京都大学経営管理大学院ファイナンス(お金のデザイン)寄附講座のサポートにより、投資教育プロジェクトの一環として開催されるものです。


執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

  • 投資
  • 年金

お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。