加藤康之の投資講座-入門編「オルタナティブ資産とは何か?」


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最初に本題と関係ありませんが一つ報告させて頂きます。

9月5日(火)18:00~19:30にライブの投資講座を新丸ビルの京都大学東京オフィスで開催致しました。約50名の方にご参加頂きました。あらためて御礼申し上げます。私の1時間の講義の後に30分間のQ&Aタイムを持ちました。時間いっぱいまで活発なQ&Aが出来ました。また、後日メールにて追加の質問も頂きました。皆様のご関心の高さを改めて認識することが出来ました。

なお、次回は12月6日(水)の18:00に同じ場所で開催する予定です。テーマなど詳細が決まりましたら本欄で連絡致します。なお、この講座は京都大学経営管理大学院ファイナンス(お金のデザイン)寄附講座のサポートにより、投資教育プロジェクトの一環として開催されました。


オルタナティブ資産とは

さて本題です。「オルタナティブ資産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

初めてという方もいるかもしれませんが、機関投資家の世界では今とても注目されている投資資産です。オルタナティブ(alternative)は英語ですが「代わりの、代替の」という意味です。つまり、オルタナティブ資産とは日本語で言えば「代替資産」ということで、株式や債券といった伝統的な資産の代わりになる資産という意味です。伝統的でない資産ということから「非伝統的資産」とも呼ばれています。実際は伝統的資産の代わりというよりは伝統的資産に追加して組入れる場合がほとんどなため、代替資産というよりは非伝統的資産と言った方が実態を表しています。

ところで、オルタナティブ資産とは具体的にはどんな資産のことでしょうか? 実際に投資されているオルタナティブ資産としては、貴金属、農産物、不動産、インフラ、森林資源、プライベートエクイティ(未上場株式)など様々です。伝統的資産以外はほぼオルタナティブ資産に含まれると言ってしまっても良いと思います。

なぜ今オルタナティブ資産が注目されているのか

最近、年金基金などの機関投資家がこのオルタナティブ資産の組み入れを増やしています。なぜ今、オルタナティブ資産が注目されているのでしょうか?

その最大の理由のひとつが「分散投資の強化」です。以前、このコラムでもお話をしたと思いますが、資産運用の1丁目1番地は分散投資です。広い資産に分散投資することによって、リスクを低減し効率的な投資を行うという考え方です。投資理論もつまるところこの分散投資の方法論といって差し支えありません。では、なぜ分散投資の強化にオルタナティブ資産が必要なのでしょうか?

グローバル化が進んだ現在の市場環境のもと、投資家が抱える大きな問題の一つは、異なる資産間の相関の高まりです。つまり、異なる資産が同じような動きになってしまうということです。これは分散投資の機能低下につながります。(相関と分散投資の関係についての理論的な解説は別の回でお話したいと思います。)

現在のようなグローバル化が進展する前、国が違えば経済の変動も大きく異なっていました。日本と米国は異なる国です。したがって、日本株式の変動と米国株式の変動もそれぞれの国の経済変動を反映しており2つは異なるはずです。

ところが、グローバル化が進展し、米国と日本の経済がより密接になったため、米国株式と日本株式の相関は高まっています。トヨタ自動車の日米での売上高はほぼ同じです。トヨタの株価は米国経済の変動に大きく影響されるのです。また、米国アップル社のiPhoneは台湾の会社によって中国で生産されています。世界はすでにつながっています。市場間の相関も高くなるはずです。

実際、米国株式リターンに対する日本や英国など主要先進16か国株式リターン(*1)の相関係数の平均値は1987年8月~2002年12月が0.637なのに対しその後の2003年1月~2017年8月が0.822と大幅に増加しています。(MSCIの月次データから計算)

なお、相関係数とは相関の強さを表すもので、-1から+1までの値を取ります。+1は最も強い順相関、0が無相関、-1が最も強い逆相関を表します。

この相関の高まりのため、伝統的資産の分散投資によるリスクの低減効果が弱くなっているのです。この相関の高まりはある意味でグローバル化の弊害と言えるかもしれません。資産運用の1丁目1番地が危機に晒されていると言えます。

オルタナティブ資産の組み入れによるメリットとは

この解決策の一つがオルタナティブ資産の組入れによる分散投資の機能回復なのです。オルタナティブ資産の特徴の一つが伝統的資産との相関が相対的に低いということです。

例えば、株式が大きく下がる時、オルタナティブ資産のひとつである金の価格が上昇することが良くあります。実際、金と株式との相関係数は低く、金と米国株式との相関係数は0.237、日本株式とは0.162となっています(TOPIX、MSCI-USA、Dow-Jones UBS金インデックスの月次データから計算、期間は1993年1月~2017年7月 (*2))。

これは、先程の先進国株式間の相関に比べると随分小さくなっています。相関が低い資産を組合せるとリスクの低減効果が高まることが分かっています。伝統的資産との相関が低いオルタナティブ資産を組入れることにより分散投資を強化しようというのが狙いなのです。

ところでオルタナティブ資産にはもうひとつ別の顔があります。それは実物資産(リアルアセット)という顔です。貴金属、コモディティ、不動産、インフラ、森林資源等どれも実物資産です。そして、実物資産は一般的にインフレとともに値上がりするため、インフレヘッジ機能があると考えられています。

経済が好調な米国では近い将来、金融緩和政策の転換が予想されています。デフレ経済からの脱却、そしてインフレリスクの再来が議論されるようになって来ました。実際、9月20日に米国FRBのイエレン議長が記者会見し、米国の金融緩和政策の見直しを表明しています。

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これを受け、米国長期金利が上昇しています。年金基金など長期の投資家は、この備えを決して怠りません。その意味でも機関投資家によってオルタナティブ資産が注目されているわけです。日本の投資家にとってみれば、インフレはまだ先と思っている人がほとんどだと思いますが、日本の世界最悪の財政状況を考えれば、インフレは決して非現実的な空想ではありません。

以上のように、分散投資の強化、インフレリスクへの対応などオルタナティブ資産の有用性には留意しておくべきだと思います。もちろん、ポートフォリオ全体では伝統的資産がなお中核的な資産であることには変わりはありません。しかし、適当な配分比率でオルタナティブ資産を保有することによりバランスの取れた分散ポートフォリオになることが期待されます。

ちなみに、THEOでは、インフレヘッジ機能ポートフォリオのなかで、金、インフラ、不動産などのオルタナティブ資産ETFに投資が行われています。これは、高い分散効果とインフレヘッジを狙ったものなのです。

(*1)主要16か国:日本、英国、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェイ、シンガポール、スペイン、スウェーデン、スイス

(*2)

日本株式:TOPIX / 米国株式:MSCI-USA / 欧州株式:MSCI-Europe / アジア株式:MSCI AC Asia ex Japan / 新興国株式:MSCI Emerging / 米国投資適格社債:Barclays US Corporate — Investment Grade / 米国ハイイールド社債:Barclays US — Corporate — High Yield / 米国長期債券:Barclays US Treasury (20+ Y) / 米国短期債券:Barclays US Treasury (1–3 Y) / 石油:Bloomberg WTI Crude Oil / 金:Dow Jones-UBS Gold / 国内不動産:FTSE EPRA/NAREIT Japan

  • データ期間:1993年1月~2017年7月
  • 出所:東京証券取引所、MSCI、Bloomberg、Dow Jones、FTSE、FACTSET
執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

  • 投資
  • 年金

お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。