加藤康之の投資講座-入門編「為替レートはどうやって決まるのか?」


前回、為替リスクとの付き合い方について解説しました。今回は、そもそも為替レートはどうやって決まるのかについて考えてみましょう。


為替レートは政府高官などの発言で動いたりするので、結局は政治的なものではないかと考えている方も多いのではないでしょうか。もちろん、政治的な要素も否定できませんが、それらの多くは短期的なものです。為替レートも経済の一部であり、その水準は経済的な合理性に基づいて決まると考えるべきです。では、為替に関する経済合理性とは何でしょうか。今回は為替レートの決定に関する理論を紹介します。

為替レートは2国間の通貨の交換レートですから、2国間の経済状況(ファンダメンタルズ)の差を反映すると考えるのが自然です。

その経済状況として物価と金利を考えるのが為替の理論です。物価の差に基づく理論を「購買力平価説」、金利の差に基づく理論を「金利平価説」と呼んでいます。2国間には物価の差や金利の差があるのが普通です。そして、この差をうまく使えば「一儲け」が出来るのではないかと考えるのも普通です。為替の理論は、この一儲けが「出来ないように」為替レートが決まる、という考え方に基づく理論です。今回は、物価の差に着目した購買力平価説について詳しく説明しましょう。

私はビッグマック(マクドナルドのハンバーガー)の大ファンですが、現在、日本のマクドナルドではビッグマックは380円で売られています。一方、米国では5.06ドルです。日米のビッグマックが全く同じものと仮定すれば、この2つの経済的価値は同じになるはずです。つまり、

380円=5.06ドル

となります。そして、この等式が成立するように為替レートが決まるというのが購買力平価説です。この場合の理論的な円ドルレートは、

380円÷5.06ドル=約75円/ドル

になり、これが、購買力平価説による理論為替レートになります。

なぜ、同じ経済的価値になるかを考えてみます。もし、実際の為替レートが理論と異なり100円/ドルであったとすれば、米国のビッグマックは円換算して506円(=5.06×100)で売られていることになります。とすれば、一儲けすることが出来ます。つまり、日本で380円でビッグマックを買い込み、米国で506円で売ればその差額で利益を得ることが出来ます。

ちなみに、このようなリスクなしで利益を上げる売買を裁定取引あるいはアービトラージ取引と呼んでいます。つまり、購買力平価説とは裁定取引で利益が出ないように為替レートが決まるという考え方です。もっとも、ビッグマックだけでは生活できませんので、実際には幅広い財やサービスのバスケット価格を対象に計算されます。

このビッグマックの購買力平価説による理論為替レートが正しいと仮定すれば、現在の円ドルレート(110円/ドル)は理論より円安であるということになります。

ちなみに、英国の著名経済誌であるEconomist誌は世界中のビッグマック価格を調べ、その理論為替レートと実際の為替レートを比較しその差を「ビッグマック指数」として公表しています。

www.economist.com

ビッグマックファンとしては、これを見れば、今、ビッグマックは世界のどこで買うのが一番お得かが分かるわけです。通貨が安い国にはショッピング目当ての観光客が大挙押し寄せるという話は良く聞くニュースです。そして、ちなみに、現在のビッグマック指数によれば、理論価格に比べ割高になっているのはスイス、ノルウェー、スウェーデンなど、割安になっているのは日本、ドイツ、中国などの通貨です。

さて次に、購買力平価説を前提に、物価が変動した場合について考えてみましょう。米国がインフレだったら為替レートにどのような影響があるでしょうか。例えば、米国のビッグマック価格が現在の5.06ドルから6ドルに上がったとします。その時、日本での価格は変わらないとします。この時も、前と同様に購買力平価から、

380円=6ドル

となります。すると円ドルレートは約63円/ドル(=380÷6)になります。価格上昇前の約75円の時に比べてドル安(円高)の方向に動きます。つまり、インフレの国の通貨は安くなり、デフレの国の通貨は高くなる方向に動くということが分かります。日本のデフレが続くとすれば円高の圧力が働くということになります。逆にインフレが来ると予想されれば円安になるわけです。

各国の財やサービスの価格はそれぞれの国の産業構造、政策、歴史、文化、習慣など様々な要因に影響されるため、直接比較することは難しく、理論為替レートの水準をそのまま信じるのには無理があると思います。しかし、インフレやデフレの影響が為替レートにどのような力が働くのかという変化の方向は参考になると思います。資産運用においてはインフレ(デフレ)の動向はとても重要なことなのです。

執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

  • 投資
  • 年金

お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。