加藤康之の投資講座-入門編「為替リスクといかに付き合うべきか?」


日本の投資家にとって資産運用のリスクと言えば為替レートをまず思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。毎日ニュースで見るドル円レートに一喜一憂する日々を送っている人も多いことでしょう。

ほとんどの投資家は円高で資産が減り、円安で資産が増えるという資産構造になっています。なぜ、それほど為替リスクが大きな影響をもたらすのでしょうか? 今回は為替リスクの影響が大きい理由とその付き合い方を考えてみます。


世界経済の成長を享受しようとするグローバル投資を行う限り、為替リスクを避けて通ることは出来ません。

グローバルなポートフォリオ投資を行っている投資家であれば、ある程度の資金を外国資産にも投資しているのが一般的です。例えば、公的年金の運用で有名なGPIFは全体の40%を外国資産(25%を外国株式、15%を外国債券)に配分しています。

実は、世界の株式市場における日本株式の時価総額比率(ウェイト)は7~8%であり、株式を世界の地域別ウェイトに沿ってバランス良く投資すれば外国株式比率は9割にもなります。ちなみに、THEOのグロースポートフォリオではほぼこの比率に近くなっています。グローバル投資を行う限り、為替リスクの影響が大きくなるのも致し方ないところです。

ところが、日本の投資家が直面している為替リスクの問題は、実は、外国資産によるものではなく、日本株式がもたらす為替リスクが問題なのです。外国資産がもたらす為替リスクはある意味で想定済みのリスクです。為替リスクをあえて取ることによって、世界の成長市場にアクセスできるわけです。

一方、日本株式がもたらす為替リスクは想定外です。「日本株式には為替リスクはないはずだ。」とお考えの方もいるかもしれません。実際、日本株式投資に為替が介在することはありません。

しかし、日本株式(TOPIX)の価格変化をドル円レートとの相関で見ると約0.7(直近60か月の月次データで計算)という高い値になっています。

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この値は外国株式(MSCI-KOKUSAIインデックス)とドル円レートとの相関とほぼ同じです。つまり、為替リスクを「ドル円レートとの相関」と定義すると、日本株式の為替リスクは外国株式と同じことになります。特にリーマンショック以降、この傾向は強くなっています。これが、為替リスクの影響を大きくしている理由です。では、なぜ日本株式が為替リスクをもたらすのでしょうか?

それは、日本の産業構造に原因があります。株式市場全体に大きな影響を与える日本の大企業の多くは自動車やハイテクなど輸出企業が中心であり、これらの企業は為替リスクに晒されています。円安になれば、円ベースの受取金額が増え、また、輸出競争力も高まります。逆に円高になれば、受取金額は減少し、輸出競争力も下がります。したがって、日本株式は円安で株高、円高で株安になることが多いのです。ただし、日本企業の為替依存度は低下して来ており、中期的には日本株式の為替リスクは低下して行くものと思われます。

とは言え、グローバル投資を行う限り為替リスクから逃れることは出来ませんし、日本株式の為替リスクもゼロにはなりません。では、この為替リスクといかに付き合えば良いのでしょうか? この議論に関しては、アカデミックスでも様々な研究がされています。それらを大まかにまとめると次の2つの結果に分類できます。

1. 為替リスクは追加的なリターンをもたらさないリスクなので、ヘッジするべきだ。(注1)

2. 為替リスクは短期的には影響が大きいが、長期的には株式など投資資産のリスクに比べ低いので、長期投資家はそのままにしておけばいい。(注2)

(注1) Perold,A., Schulman,M., 1988, ”The free lunch in currency hedging: Implications for investment policy and performance standards”, Financial Analysts Journal

(注2) Froot,K., 1993, ”Currency hedging over long horizons”, NBER Working Paper

双方の議論は「為替変動でリターンを得ることは出来ない」という観点では一致しています。

つまり、為替はリスクのみもたらすがリターンはもたらさないということです。為替レートは短期的には大きく変動するのでうまくタイミングを計れば儲かりますが、常にタイミングを当てられる人はほとんどいません。

一方、長期ではどうでしょうか。最近(2017年5月12日)のドル円レート(113円24銭)を20年前(1997年5月末)のドル円レート(116円53銭)と比較して見てもほとんど変わっておらず、リターンはあまり期待できそうもないことが分かります。

①と②の相違は短期的な為替の変動というリスクにどう向き合うのかということになります。答はどちらが良いということではなく、あなたがどのような投資をしたいのかに依存します。

つまり、もし、あなたが短期の投資を考えているのであれば、短期的な為替の変動は避けたいはずです。したがって、この場合は①のように「ヘッジすべき」ということが答になります。

ただし、ヘッジにはコストがかかります。そして、このコストは日本と外国との金利差に連動し、現時点ではこのヘッジコストは極めて高くなっています。例えば高金利の外国債券投資をした場合、為替ヘッジしてしまうとそのコストで債券による高い金利収入がかなり相殺されてしまいます。この点に注意が必要です。

一方、あなたが長期投資家であれば、短期の変動は許容できるので、ヘッジの必要はなく答は②のように「そのままにしておく」ことになります。また、長期的な為替リスクは株式などリスク資産の変動に比べて低くなるのでやはりそのままにしておけばいいことになります。

ちなみに長期投資を前提とするTHEOも為替はヘッジせずそのままにしてあります。短期的には為替変動にイライラすることになりますが、長期投資家のあなたにとってはどうでもいいことです。あくまでも現地通貨建ての資産成長に注目し、為替の変動分は見ないことにすべきです。もちろん、円安になって資産が増えたら、それはそれで、心の中で「ラッキー」と思えば良いのですが。

執筆者

得意分野:投資理論・金融工学

加藤康之

  • 投資
  • 年金

お金のデザイン研究所所長、首都大学東京特任教授、京都大学客員教授。東京工業大学修士、京都大学博士。(株)野村総合研究所、野村證券(株)、同社執行役、京都大学教授などを経て現職。専門は投資理論・金融工学。他に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)経営委員、証券アナリストジャーナル編集委員などを兼務。